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『マルコポーロ』の旅路の果て【新保信長】 新連載「体験的雑誌クロニクル」17冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」17冊目

 

 文藝春秋で仕事をするようになって驚いたのは、予算の潤沢さだ。社員編集者時代、爪に火を点すようにしてやりくりしていた身からすると、「え、そんなにお金かけていいんスか!?」とビビる場面が多々あった。特集「連合赤軍なんて、知らないよ。」(1993年7月号)では、呉智英×大月隆寛×福田和也の鼎談の構成を担当したのだが、そこに速記者がついた。後にも先にも速記者のついた取材はそれだけだ。

 拙著『食堂生まれ、外食育ち』にも書いたけれど、校了時期に編集部にいると取ってくれる弁当もすごかった。「え、料亭の仕出しですか?」と思うほど豪華なもので、「これ、本当にお金払わずに食べちゃっていいんですか?」と心配になったほどである。

 特集テーマとしては、前述のマンガ、テレビのほか、「あやしい、女子高生。」(1993年8月号)、「読書狂い。」(12月号)、「食の奥の手」(1994年1月号)など身近なものだけでなく、「怪しい中国、成金ワンダーゾーン。」(199311月号)、「イザ、往カン、マボロシノ[満州]へ。」(1994年2月号)といった少々距離を感じるものもあった。出入りの業者としては決まったテーマの中で企画を出すだけだが、正直「これは売れるのだろうか」という懸念がなきにしもあらず。1994年3月号で「エロスはヘアに宿るにあらず! アンチ・ヘア」と題してエロ特集をやったときには危険な兆候を感じたりもした。

 果たして、1994年5・6月合併号を最後に編集長交代とリニューアルが決定する。新たに編集長に就任したのは、前『週刊文春』編集長・花田紀凱氏であった。編集スタッフも半分くらい入れ替わり、私の業務委託契約も担当連載もそこで終わった。 

 新装刊の『マルコポーロ』7月号は、表紙イメージも一新。タイトル以外に見出しなどの文字はなく、内田有紀がカバーガールを務める。いわゆる「特集」はナシ。もくじで一番大きい扱いは「検事総長、吉永祐介独占インタヴュー。」で、ほかにも「独占スクープ 北朝鮮=ロシア「核」秘密協定をスッパ抜く。」「政界激震スクープ 内藤前通産省局長はなぜ証言をやめたか。」「美容師バラバラ殺人をめぐる『奇っ怪な噂』。」といった見出しが並ぶ。特集主義からスクープ主義への転換は明らかだ。

 

『マルコポーロ』(文藝春秋)1994年7月号表紙ともくじ

 

 一方で、文化欄や連載などの読み物ページは拡充。「私の読書日記」「マイ・ベスト・ミステリー」「これが大好物」など、毎回いろんな人が登場するコーナーのほか、小山薫堂、大竹まこと、伴田良輔、高橋春男、みうらじゅん、西原理恵子らの新連載もスタートする。スクープ記事と連載で客を呼ぶというのは、つまりビジュアル版『週刊文春』だ。

 契約終了した私も、そのままサヨナラではなく、文化欄で「編集部美女図鑑」「名物コラムの研究」「今月の廃刊録」という小さなコーナーの取材・執筆を担当することになった。「編集部美女図鑑」は毎回美女に会えてよかったが、問題は「名物コラムの研究」である。初回こそ自分が好きだった『ぴあ』連載の大川豊「金なら返せん!」を取り上げたものの、以後は花田氏セレクトの古色蒼然としたコラムについて書かされることが多かった。それでも担当編集者へのコメント取材も込みだったので、いろんな編集部とつながりができるのはありがたく、原稿料も悪くなかった気がする。

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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